前作『黒蛇紅蛇』から6年の時を経てリリースされた本作『饒彩万輝 (じょうさいばんき)』。今年は我々六合にとって結成15周年にあたる節目の年であり、今作はその節目にふさわしい15年という時間が凝縮された作品である。これまでの作品でも様々な側面を見せる楽曲を収めてきたが、この『饒彩万輝』ではその性質がさらに深化しており、また「色彩」をテーマとした六合初のコンセプトアルバムでもある。本文は、その世界をより深く感じる"ヒント"とも言えるだろう。楽曲ごとに紹介していこう。
オープニングを飾るインストゥルメンタル曲であり、アルバムの世界を象徴する一曲。艶やかにして妖艶、幻想的なアートワークと深くリンクする壮大さを感じさせる。まるで映画音楽のような、視覚的世界をイメージさせる仕上がりとなっている。ストリングス、パーカッション、和楽器という性格の異なるサウンドを撚り合わせ、独特の美しい響きを生んでいる。
"銀色"をテーマカラーに持つアップテンポでハード、且つポップな要素も兼ね備えた、正に"ダーク・ロック"と呼ぶに相応しい楽曲。一番の聴きどころは、六合の体現するダーク・ロックの本質である陰鬱さと、煌びやかさが合わさった世界観である。冒頭のダークな雰囲気から、サビに向かうにつれ徐々に増していくブライトネスは楽曲にドラマ性を与えている。サビの歌詞「目の眩むほど愛しきはこの道、当て所」に込められたメッセージが、この曲の内包する力強くポジティブな想いを強く表している。
"烏羽色"という日本の伝統色がテーマカラー。この曲では、様々なタイプのサウンドを展開する六合の攻撃的サウンドが最も強く前面に押し出されている。冒頭のドラムフィルを皮切りに、スラッシーなリフからスタートし、メロディアスなリードギターへと流れていくイントロがアドレナリンを放出させる。歌詞のテーマとなっている"人類の驕りを見つめる擬人化された烏"が激しく飛び交うような前半を過ぎると、トライバルで妖しげな中間部へと突入していく。また、この中間部では六合のリズムセクションが得意とする、プログレッシブな変拍子が異彩を放っている。さらに特筆すべきは、BPM240というアップテンポながら、6分半という大作であるという点だろう。
テーマカラーは"火色"。火色とは緋色の別名で日本の伝統色の一つである。緋色ではなく火色を採用しているところも、一つのものに複数の側面を見出す六合の創作の特徴と言えるだろう。曲調はアップテンポで、いわゆる四つ打ちのダンサブルなビートを取り入れている。これまでの作品にもこういったビートの曲は存在していたが、この人想火はアルバムの世界観とリンクして情景が浮かぶような雰囲気を醸し出しているという点で、過去作品からの進化が感じられる。また、この曲で表現される火とは基本的に暖かな火であり、前向きな思考やメッセージを歌詞に込める六合の作風をよく表している曲であると言える。
テーマカラーは"藤色"。この曲は視覚的な体験が基となっており、風景画の様な美しさを持つ仕上がりとなっている。その情景とは、早朝の西の空に浮かんだ藤色の朧月である。様々な条件が合わさった時に、突如として現れる自然の美を捉えることはとても幸運なことであり、この曲はほんのひと時訪れた、現実を忘れるほどの幻想的な瞬間を表現している。楽曲の構成は比較的シンプルで、複雑な展開を得意とする六合としては珍しいタイプの楽曲と言える。リズムセクションもかなりシンプルなアプローチを選んでいるが、ギターはこれ以上無い程にメロディアスにボーカルラインと絡み合い、さながら朧月の周りを漂う雲の様な印象すら与える。
テーマカラーは"白"。色としての白だけでなく、空白という空間的な意味合いも加えられている。全体的に日本的、もしくはアジアンなフィーリングを強く醸し出しているアレンジとなっており、ミドルテンポの曲調と相俟って非常に雰囲気のある楽曲となっている。中間部では特にその色は濃くなり、異空間へと誘うかのように美しく展開していく。後半、ピアノとギターの掛け合いが緊張感を高め、空白の空間を漂う様なクライマックスへと流れていく。
"橙色"がテーマカラー。夕暮れの情景を基にした楽曲である。中盤の歌詞にも登場するが、幾億年変わらないであろう夕暮れに、今日が終わっていく寂寥感と明日へと向かっていく期待感を表している。夕暮れ時の雰囲気を表現したクリーンギターから曲は始まるが、美しさの中にどこか妖しさが漂い、逢魔時とも表現される何とも曖昧な時間のイメージを具現化している。また、中間部のハードでファンキーなベースラインは必聴。胸を刺す様な感情むき出しのヴォーカルラインと見事な調和を演出している。
"滅紫"という日本の伝統色をテーマカラーに持つ。この曲は、前曲"橙"と時間軸で繋がっている存在である。"橙"は昼が終わり始め、夕焼けが始まるか否かといった時間帯であるのに対し、この"滅紫に染む"はその後の夕焼けが終わった極僅かな時間、暗闇が訪れる手前の空から着想を得ている。アルバム中唯一バンドアレンジでは無いという点も特徴である。このようなアレンジにすることで、より強くネイチャー感を表現している。歌詞の中心にあるものは、世界に存在するモノたちの本質は外形の外側にあり、輪郭が曖昧になる薄暗がりにこそ、それに触れ得る、という感性である。
テーマカラーが"無色"という異端な一曲。異端を感じさせる部分はテーマカラーだけではなく、曲の展開やアレンジにも色濃く表れている。妖しげなパーカッションに乗せて、蛇の様にうねるリードギターが印象的な冒頭部から、突如アグレッシブなリフへと展開するイントロ。サビの前ではカオティックとも言える彩り鮮やかな音の奔流が現れる。中間部ではオリエンタルな雰囲気が濃厚に溢れ出すアレンジがスリリングに展開する。そして、最後は全てが無に帰すかの如く消えていく。
テーマカラーは"金色"。イントロから浮遊感のある心地よいビートが染み渡るアップテンポな一曲。この世は黄金の様に普遍的に価値のあるものであり、それに対する畏敬の念を持って生きることが歌詞のテーマとなっている。その壮大なテーマに相応しい非常にパワフルな楽曲である。しかし、このテーマは噛み砕くと「感じ方次第、気の持ちようで人生は大きく変わる」ということであり、とても素朴なテーマとも言える。日常を強く生きる、前向きに物事を捉えて困難に立ち向かう、という単純だが実現には数多の困難が存在するある種の人生の理想像を追求した楽曲である。曲の構成や展開には六合らしさが散りばめられており、その最たるものはダンサブルなリフワークで聴かせる中間部だろう。骨子はシンプルだが、一筋縄ではいかないアレンジで飽きることなくクライマックスまで突き進んでいく。まさに人生の苦楽が表現されている。
テーマカラーは"桃色"。非常に儚げで流麗な楽曲。今にも消えてしまいそうなピアノのフレーズの繰り返しが印象的な前半部から、バンドサウンドが加わる後半部に進むにつれて、ノスタルジーにも似た感覚が胸に押し寄せる。しかし、その美しい楽曲の裏には歌詞に込められたメインストリームに対してのアンチテーゼとしてのメッセージが存在する。偏った一つの価値観にとらわれ盲目となることで、本来存在する多様な美しさが蔑ろにされる。この世界のある部分では、そんな事態が常態化しているのではないか? 本来、多様性の上に成り立つべき世界への憧れのようでもある。今後の我々の音楽活動の在り方を示しているような、アルバムのラストに相応しい一曲である。
我々六合が心血を注ぎ込んだアルバム『饒彩万輝』。本作があなたの人生の彩りの一つとなったならば、これほど幸せなことはない。
2019.8.6
積田晋平 / 六合
京都発ダーク・ロック・バンド、六合。日本語のもつ「喜怒哀楽、生と死」の世界を旋律にかえ、時には力強く、時には繊細に聞き手の奥底深くに響鳴する。圧倒的表現力と演奏力を兼ね備えたポピュラリティとオリジナリティが融合し織り成す唯一無二の音世界。
結成15周年という節目の年にリリースする本作は「色」をテーマにしたコンセプト・アルバム。まさに六合の集大成と言える傑作集である。
彩り鮮やかな「饒彩万輝」にぜひ触れてほしい。
作物が豊かに実るように彩が満ち満ちて、数多の輝きに溢れている様。
日々の営みの中に目を見張る美しさは溢れる。至る所に現れる特別な瞬間の数々。この世は正に饒彩万輝。
8/7(水)発売
全11曲収録
413TRACKS / FTCA3153 / ¥2,800 (+税)
積田晋平 - Vocals
原田一樹 - Guitars
仲出克大 - Guitars
杉森俊幸 - Bass
八木俊介 - Keyboards
内田伸吾 - Drums
Produced by 六合 and Tetsuji “tetsu666” Yamada (413TRAKCS)
Mixed and Mastered by Tetsuji “tetsu666” Yamada (413TRAKCS)
Mixed and Mastered at GARAGE126
Recorded at STUDIO RAG / Imagination Studio / Studio ECL
All Songs and Lyrics are written and performed by 六合
Additional Keyboards - Devin Kinoshita (M1, 8) / 風河 (from 大鴉) (M5)
Recording Engineer - 阪本大雅 (Studio RAG)
Art Direction & Design - 内田伸吾
Special Thanks to
413TRACKS, STUDIO RAG
Everyone who is supporting us, and all the bands, zine, gears, families, friends and you.
未発表音源「霧~邂逅~」CD-R
六合の代表曲のひとつ"霧"が、ギター・トラックを新たにレコーディング、リミックスした結成15周年特別版として甦る。
※カラオケ入り/配信版とは別ミックス
※オリジナル収録:真神楽(2010.6.30 / FTCS-2274 / V.A)
※特典は先着となりますので、なくなり次第終了となります。あらかじめご了承下さい。
OPEN: 17:00 / START: 17:30
ADV: ¥2,500 / DAY ¥3,000 (+1Drink)
ACT: VISCO / medamoil / eleanor / SOUNDWITCH / 六合
OPEN: 16:30 / START: 17:00
ADV: ¥2,500 / DAY ¥3,000 (+1Drink)
ACT: EARLY CROSS / ANGERS / e:cho / ulma sound junction / 六合
京都を中心に活動するダーク・ロックバンド。
2004年に Vo 積田晋平のソロとして活動開始。そこに当時のGt、Ba、そしてDr 内田伸吾が加入しバンド形態となる。以降、精力的にライヴを行い、2005年に初の音源「幽遠」を発表。その後、2008年の1stアルバム「宵闇の残光」発表。ワンマンライヴや主催イベント、メジャーアーティストのオープニングアクト等、ライヴ活動を継続しながら、2009年に初のシングル「緋」を発表。同年に「SAMURAI METAL
Vol.5」、翌2010年には「真神楽」と2枚のコンピレーションアルバムへ楽曲提供も行う。
そして2013年、5年ぶりとなる2ndアルバム「暁に産声、忘却の鼓動」を413TRACKSより発表し、過去最大規模でのツアーを展開。アルバムと共にライヴにおいても各方面より高い評価を得る。さらに、2015年にはEP「黒蛇紅蛇」をリリースし、海外アーティストとの共演や主催イベントを開催。圧倒的表現力と演奏力を兼ね備えた唯一無二のサウンドを確固たるものとした。
結成15周年を迎えた2019年、待望のニューアルバム「饒彩万輝」をリリースする。
六合の作品は日常の中で垣間見える感情の揺らぎから着想を得て生み出される。バンド名の由来にも込められた「喜怒哀楽、生と死」が日常的に交錯し人間の人生が形作られる様を表現しているとも言える。力強く、そして何処か儚げな心に迫る旋律と日本語詞。圧倒的表現力と演奏力を兼ね備えたポピュラリティとオリジナリティの両極端が融合し織り成す唯一無二の音世界。六合の作品に触れ、その世界から自らの迷いや停滞を振り払う為のヒントを得る事ができたならば、きっとその日常は今より少しだけ光を放ち始めるだろう。